お風呂への郷愁 Homesickness to bathing in Japan
日本に行ったことのない生徒たちに日本のことを知ってもらうにあたって、
映画は言葉や写真で説明するよりはるかに多くのことを伝えてくれるので重宝しています。
『ALWAYS 三丁目の夕日』を観れば、戦後間もない(ただし多分に美化された)東京を知ることができる、というのは以前の記事でお伝えしたとおり。
ドキュメンタリーはもちろん、時代劇でも学園ものでもヤクザものでも、どんなジャンルであっても日本の歴史や社会にかこつけて、話のタネは尽きないのがありがたいところです。
今回は少し別の角度から日本文化を紹介してみましょう。
海外に長期滞在する日本人にとって、最も日本が恋しいと感じることは何でしょうか。
おそらく食と並んで、間違いなく上位にくるのがお風呂(含む温泉)ではないでしょうか。
日本で普通お風呂といえば体を洗って湯船に浸かることがセットですが、海外ではシャワーだけで済ませるところも多く、ブラジルも例外ではありません。(そもそも一般家庭には湯船自体がありません。)
そんななかで日本のお風呂の良さを「こんな気持ちのいいものはない」「体もいつも清潔」といくら力説してもなかなか理解してもらえませんし、逆に生徒から「人の入った後のお湯に浸かるなんてむしろ不潔だ、気持ち悪い」と返されることもあって、まあそれはそれで一理あるかもしれん、などと思ってしまいます。
それはともあれ、日本人のお風呂への愛とこだわりを分かってもらうには、『テルマエ・ロマエ』を見せればたちどころに解決するでしょう。
古代ローマのテルマエ(浴場)設計技師であるルシウスが、現代の日本にタイムスリップするという荒唐無稽なお話。
ヤマザキマリによる漫画の原作は、細かい蘊蓄も含めて笑いどころ満載なのですが、映画版では時間の制約もあり、よりシンプルで分かりやすい娯楽作に仕上がっています。
現代日本のお風呂を目の当たりにしたルシウス、銭湯の壁に描かれた富士山をナポリのヴェズヴィオ火山と勘違いしたり、風呂上がりのフルーツ牛乳や便器のウォシュレットに大真面目に驚愕したり、そしてそれらを古代ローマでも微妙に真似してみたりと、いちいち笑わせてくれます。
ルシウスに扮する阿部寛を筆頭に、日本人ながらイタリア人に交じっても違和感のない「濃い顔」の俳優たちが勢ぞろいしているのもポイントです。
見方によっては、日本人による自国の自画自賛映画とも捉えられかねないので、ブラジル人に受け入れられるのか上映前は心配したのですが、杞憂に終わりほっとしました。
笑いのポイントでは、生徒たちもしっかり楽しんでくれたようです。
ブラジルに来て一年半。
食についてはいくらでも代替が利くのでその点でストレスはないのですが、
お風呂については、その渇きが充たされることはいまだありません。
湯船で思いきり体を伸ばし、呆けたように時間を過ごし、心身ともに癒される日を夢見ています。