フィールドノーツ(4)久松ことばと下地勇 Fieldnotes 4 Miyako Island : Hisamatsu language variety and Singer, Isamu Shimoji
久松の中で、下地勇さんを知らない人はいないだろう。ミャークフツ(宮古ことば)、久松フツで歌うシンガーである。次のYouTubeは、社会言語学者のパトリック・ハインリッヒさんが撮影をしたものだが、勇さんとパトリックさんに許可を受けたので、ここに紹介したい。
下地勇さんは、ご自身で作詞作曲もし、それを久松フツやミャークフツで歌う。2013年にご自身の歌手生活10周年を記念して、宮古島の久松でもコンサートを開いたと聞いた。下地勇さんはこれまでも定期的に久松小学校と久松中学校に「久松の先輩」として訪問をしているのだが、その年は、10周年記念コンサートのために、久松小学校と久松中学校、それぞれの子どもたちと一緒に、1曲づつの曲を作ったという。作詞は子どもたちが、そしてそれに下地勇さんが曲をつけるという協働作業。そのときは子どもたちもコンサートに招待されて歌ったので、日本語(標準語)だった。久松中学校の音楽の先生は、この歌を大切にしていて、中学1年生に新しく上がってきた子どもたちとも歌ったと言っていた。歌はうたい継がれていくかもしれない。
歌手の下地勇さんは自分ができる形で、久松という故郷を大事にし、また、久松の子どもたちを育てているといえるのではないだろうか。
ここに挙げたYouTubeの後半部分で、下地勇さんは久松・宮古島で伝わる先人たちの言い伝え、伝承、ことわざである「黄金ことば」を紹介している。下地勇さんが好きなことば、「木にぶら下がるときは片手でぶら下がりなさい」。これは下地勇さんの10周年記念アルバムの「Stock Out」という日本語で歌われたアルバムの1曲、『帰り道』にでてくる。「今初めて気がついたんだ。両手でしがみついてちゃ、差し伸べる手などない」。
下地勇さんの1枚目のアルバム『天』が出たころのインタビューでは、このようにいっている。「僕の場合は、宮古に生まれて、宮古の言葉を使って生きているわけで。だから、その土地の言葉で歌を作るというのは自然の流れなんです。もう民謡と一緒ですね。生活をそのまま三線で歌にしているという。ただギターでやっているということだと思います。」(http://www.churashima.net/people/i_shimoji/2.html)
自然体で、自由闊達な下地勇さんしかできないやり方で、故郷の久松ことばと文化、宮古島のことばと文化を次世代に誇りを持って伝えている。子どもたちと話しをして、下地勇さんの気持ちを真正面から受け止めている子どももたくさんいると感じる。