鬼と文士と映画の祭 The feast of “Oni”(Demonish spirits) , a literary person, and movies in Okubo
最近、大久保〜歌舞伎町のそこかしこに下の案内が貼られているのを目にした人はいるだろうか。
職安通り沿い、歌舞伎町内にある稲荷鬼王神社の大祭だ。9月の連休の二日間にわたっておこなわれるこの祭り、「耳なし芳一」の朗読会や「鬼面」の彫られた宮神輿など、他ではちょっと見られないような催しが目白押しだ。
ぼくは実は予定が詰まっていて企画自体はほとんど見ることができなかったのだけれど、それでもせっかく家から近いのだからちょっとだけ見物に行ってきた。
鬼王神社は家からすごく近くて、でも正直ふだん立ち入ることはほとんどない。実際、ぼくのようにこの街に移り住んできた人の多くはそうなんじゃないだろうか。
それが、どうだろう。
お祭りの定番の提灯がこんなにたくさん。地域の多くの商店や個人がここにつながっていることが一目で分かる。
ぼくが訪れたのは14日の昼下がり、中では露店の準備がさぁこれからという感じだったのが、興味深いのはこちらだ。ぼくが生まれる平成元年(1989)よりずっと前の、映画のポスター。
大正時代、歌舞伎町二丁目には『大久保館』という映画館があって、新宿の文化を育む拠点のひとつとなっていた。これにちなんで、大祭でも、映画のポスターや資料を展示しているのだという。
ぼくはあまり詳しくないけれど、好きな人には垂涎ものなのだろう、多くの人が写真を撮っていた。
また、さらに境内の本殿のほうへ進むと、参拝所の脇にはこんなものが。
これは以前このブログでも紹介した、小泉八雲ことラフカディオ・ハーンの『怪談』所収の「耳なし芳一」の1シーンを木彫りにしたもの。ほかにも、明治時代に観光された『怪談』の英語本なども展示されている。
ハーンの旧宅があったのは、ちょうどいまの大久保小学校のあたり。このお祭りには、そうした文化人たちが暮らした歴史を継承する狙いもあるのだ。
また、このお祭り、鬼王神社の社名にちなむ神輿には鬼の面が彫られ、練り歩いた後の神輿の宮入は若者が鬼面を被って明かりをもって迎えることで有名だ。
というのも、この神社は全国で唯一、鬼によって福が授けられる社なのだ。調べてみると、節分でも、「福は内、鬼は内」と唱えるとか。
なんだか、耳なし芳一にせよ、鬼にせよちょっとおっかない気もするけれど、
それらはすべて、地域の歴史を意識して継承していこうという試みのシンボルになっているのだと思う。歴史を参照することが、今の時代に通用するユニークさを生み出しているというのは、とても面白い話だ。
だから、このお祭りの看板にはこうあった。「大祭の異名『鬼と文士と映画の祭り』」。
鬼王稲荷神社では、10月19・20日には商売繁盛の神さま、恵比寿さんのお祭り、「恵比寿祭り」も行われるという。
今回は神輿が見られなかったけれど、10月こそぼくもお祭りを楽しみに来よう。皆さんもぜひ、訪れてみてはいかがだろうか。
やたら写真を撮っている人がいたら、それはぼくかもしれません。声かけてね。