ハラール HALAL
大久保の街には、たくさんのお店がある。あまりありすぎて、同じ商品を出すお店同士、競争にならないのか心配するくらいだ。
たとえばホットク(韓国のおやき)。ぼくの家の前の職安通り沿いだけでも何店舗かある。
他にも、焼肉屋だって多いし、「韓国料理」といった大きな括りだともう数え切れないほどだ。
そして、韓国料理じゃないけれど、やはり競争が心配される(つまりはそれだけ質の良さが期待できてうれしいのだけど)お店がある。
それが、ケバブ屋だ。
ケバブ、というと東京の人なら原宿や上野を思い出すだろうか。地方在住だとお祭りの屋台などで売られているのになじみがある人もいるだろう。
中高生時代四国に住んでいた頃のぼくにとってはそうで、年に一度祭りのときだけ食べられる特別な食べ物だった。
それがどうだろうか。いまでは家の真向かいにまでトラックのケバブ屋台が出ているのだから、まるで毎日がお祭り状態だ。うれしくって、3日に1回はケバブを買って食べている。
ところで、ケバブといえばイスラム文化圏の食べ物、というイメージをお持ちの方もいるかもしれない。じっさい、以前パレスチナに旅したときは何かにつけケバブを食べたものだった。
だけど、イスラム圏の食べ物だということはおぼろげに知っていても、それだけ。じゃあそのケバブがどういうものかなんて、まぁ当然といえば当然かもしれないけれど、考えたこともなかった。
が、どうだろう。家の前に新しくできたケバブ屋は、この看板である。「NO KEBAB, NO LIFE」。
まるで○ワレコかと言わんばかりだが,大切なのはそこじゃない。「HALAL」の文字だ。
ハラールというのはイスラム法の食物規定をさす。
NPO法人「日本ハラール協会」(http://www.jhalal.com/halal)によると、血抜きの方法が決められていたり、豚を使用した食材は避けることとされていて、近年はオーガニック食材への関心からも注目を集めているそう。
で、このケバブ屋さんはそれを全面にガッツリ押し出しているというわけだ。
気になって、1年半ほど前にトルコから来たという店員さんに聞いてみた。
「このケバブって、ハラールなんですか?」
「そうだよ、ケバブはどこもそうだよ」
……恥ずかしながらぼくが知らなかっただけで、ケバブといえばハラール、これは常識のようでした。
そういえば考えてみれば、ポークのケバブは聞いたことがない。
正直、この一件にぼくは割とショックを受けた。
ぼくは実はパレスチナに旅をしたことがあって、それなりにイスラム圏の文化に関心がある「つもり」だったし、ケバブしかり食にも関心がある「つもり」だった。
けれど、その文化に生きる人から当然のことすら、ぼくには未知なのだ。
それは翻せばたぶん、ぼくが自分の生きてきた文化を自明視していて、相対化していないことの証しでもあるのだ。
ぼく個人は、実家の環境上、キリスト教の文化によって自分が形成されてきたところは、良くも悪くもとても多いと思う。
おかげで、たとえばお盆の習慣すら実はよく知らないし、イスラム教については無知も甚だしい。
だとすればぼくがいま大久保に住んでいるということは、ぼくが自分が生きてきた文化の枠組を揺るがせ、ミックスして、もっと包括的なものに変えていくチャンス、なのかもしれない。
お気づきの方もいるかもしれないけれど、これまでこのブログではなんとなく食を切り口にしてきたけれど。
これからはそれに加えて、宗教を切り口に考えてみたい。実は大久保には、とても多くの教会や寺院が存在している。
ぼくはそれについて知りたい。街を新たなかたちで生き直してみたいし、それによってぼくの生き方も変わることがある気がする。