カソリック教会内の「共通語」としての日本語 Japanese as ’lingua franca’ in a Catholic church
カソリック教会で「バイリンガル家族」について話をした時、日本語が「共通語(リンガフランカ)」として使われている場面に出合った。
私を招待してくださったシスターの部屋で打ち合わせ後、シスターは用事をすませるために部屋を出た。私はシスターの部屋でしばし一人の時間を過ごす。
マリアとキリスト、ヨハネパウロ二世法王の写真、聖書の数々。何かの式で用意された白百合の花束から漂う甘い香り。次第に、私は緊張が途切れたためか、頭がぼんやりとしてきた。そのときに、ドアのノックの音がする。
ドアが開き、西洋人の顔立ちの神父さんが顔をのぞかせる。服装から神父さんだろうとわかるが、シスターがいないことをどう伝えたらいいのか、何語で話すべきなのか、躊躇した。すると、神父さんは真剣な面持ちで一言。「コーヒー飲みますか」と日本語でおっしゃる。
「シスターは今、用事でいらっしゃらないのですが」「コーヒー飲みますか」「ええ、シスターは・・・」「あなたはコーヒーを飲みますか」「ええっと、・・・はい、私はコーヒーを飲みたいです。」「カップを」(とっさにシスターの部屋にあるお客さん用だと思われるカップをお借りし、神父さんに渡す。すると、神父さんは300mlぐらいの薄ピンクの水筒から、コーヒーをカップに4分の一ほど注いで、手渡してくれる。一口で目が醒める、苦みの強い、おいしいコーヒーだった。)
表情を変えずに、コーヒーがいるかどうかだけを最低限、聞き出したい神父さん。シスターが戻ってきたときに再び現れて、シスターにも日本語で「コーヒーを飲みますか」。シスターと神父さんの日本語の短いやり取りのあと、私はシスターにこの神父さんについてお尋ねした。ドイツ出身の神父さんで長く日本にいらっしゃるとのこと。この時間になると時々、自分でいれたコーヒーをシスターたちに分けてくださるという。それを話す、私とシスターも日本語を使っている。
メキシコ出身のシスター、ドイツ出身の神父さん、他にも世界各国からの神父さんが多いときには100人以上を越えたというカソリック教会。ここ、東京の真ん中にある教会では、日本語が共通語(リンガフランカ)となっていた。