媽祖様の歌 Song of Mazu, the Chinese goddess of the sea
いつも前を通って、気にはなるのだけど、なんとなく一歩踏み込むことができずにいる。
そんな建物は、たぶん誰にでも一つくらいあると思う。
ぼくにもあった。それが、これだ。
初めてみたときは、新しく中華料理屋でもできたのか、くらいに思っていて、でもどうやら違うらしいことがわかってきて、ずっと気になっていたのだけど。
ここ、最近知ったのだけど、台湾で信仰されている神様を祀ったお寺らしいのだ。
その名も「東京媽祖(まそ)廟」。
最近宗教に興味のあるぼくとしては、これは行ってみるしかない!ということで、ある平日の昼下がり、ふらりとお邪魔させてもらった。
すると、どうだろう。ぼくはてっきり、一人でなんとなく見て帰るつもりでいたのに、受付の人が優しく話しかけてくれて、施設の案内をしてくれるという。とてもありがたいです。中華料理屋だと思っていてごめんなさい。
やはり台湾出身だというその方に説明してもらいつつ、一時間弱くらいかけて、お寺のつくりをじっくり学ぶことができた。
なんでも、東京媽祖廟は2013年の10月にできたばかりのとても新しいお寺で、台湾に住む人や、台湾出身で日本在住の人などから、多くの支援があってできたそうだ。
で、肝心の媽祖さまとは、台湾や中国沿岸部で信仰されている道教の女神さまで、航海や漁業の守護神なのだという。
また、媽祖さまが祀られている媽祖廟は、各地に移住した華僑の人びとが広めていった結果、全世界にいまや2000以上あって、その信徒は2億人にもなるそうだ。この東京媽祖廟はその2000のうちのひとつというわけだ。
外見からは中の様子が想像つかなかったのだけど、建物は4階まであって、各階に媽祖さまが祀られていてお祈りができるようになっていた。
2階
3階
4階
こんな感じだ。
面白いことに、各階は一見すると似ているようで、祀られているものや置いてあるものの意味は微妙に違っている。
2階の「朝天宮」の媽祖さまは台湾の北港朝天宮の分霊で、一緒に並ぶ二体の神は「千里眼」と「順風耳」。遠くの景色を見渡し、音を聞き分け、道を指し示してくれるそうだ。
3階の媽祖さまは、案内してくれた方いわく「媽祖さまのふるさと」である泉州天后宮の分霊。
泉州天后宮は、中国最古の媽祖廟といわれているらしい。一緒に祀られているのは、「関帝」(「関羽と劉邦」でよく知られている関羽だ)と「武財神」。どちらも、商業や財運・金運に関係があるとのこと。
そして4階に媽祖さまと一緒に祀られているのは、日本でもよく知られた観音さま「観世音菩薩」と、「准提菩薩様」と「孔雀明王菩薩」。
案内の方によれば、台湾のお寺では、このように道教の媽祖さまと仏教の菩薩さまが一緒に複数祀られるのはよくあることだそうだ。
このような説明をしてくれながら、案内の方が言っていたことが印象的だった。
「ここはいつ来てもいいし、悩んだときとかに静かに心を静めて、お祈りをしたらいい答えが見つかる。この媽祖廟は、風水がとてもいい場所に作られています。私も、働いていて気持ちがいいです」
ぼくはキリスト教の文化に主に接して育ってきたので、媽祖さまのことはもとより道教や仏教のことはよく知らない。
だけど、悩んだときにここに来てお祈りをする感覚がどのようなものなのか、とても興味があるし、なんとなく共感もできる気がする。
受付ではぼくも習わしにしたがって名前を書いて帰ったけれど、帳簿には多くの人がサインをしていた。毎日、国籍や背景を異にするいろいろな人が、いろいろな思いを抱えてここを訪れていることだろう。お祈りこそしなかったものの、ぼくもまた、そうやって訪れた人の一人なのだと思わされる。
それに、受付の方はとても親切にしてくれて、台湾から来たというお坊さんもとても素敵な笑顔の方で、挨拶の仕方などを教えてもらっているとあっという間に時間は過ぎていった。
あっという間なのに穏やかな時間だったのは、風水がいいから、だろうか。暖かく迎えてもらったから、だろうか。
帰り際、「来られてよかったです、友だちが留学しているので台湾にも行ってみたいです」というと、受付の方は喜んでくれて、台湾のおすすめのお寺の住所を書いた紙と、一枚のCDをくれた。
CDの名前は「媽祖様の歌 Song of Mazu」。
ちなみに、オリジナルのメロディーだというこのCDは、とてもよかった。
心が荒んだら、これを聴いて、それでもだめだったら、ぼくも次はお祈りをしにいってみようかと思う。
*東京媽祖廟は誰でも訪問することができるし、今回ぼくが受けたように案内をしてもらったり、お願いすれば写真を撮ることもできると思う。
ただ、訪問する際はあくまで宗教施設であり、祈りの場であることは忘れずにいてほしい。